nakaban

島を一周スタンプ制作の手記

nakaban/画家・絵本作家

まず、屋久島の地図をひろげてみよう。歪んだ五角形の島の大部分はご存知の通り山であるのに対し、ふもとのわずかな平地には24の里が島をぐるり と一周出来る県道に沿って点在している。かつての里はそれぞれ面した海の向こう、つまり薩摩、琉球、中国、朝鮮との交易で栄えたという。もう一度振り返って山側に 目を向けると、里にはそれぞれの山というものがあり、年に一度「岳参り」という伝統行事が今でも行われている。そのような背景のため、里の文化・風習もそれぞれ大きく異なっていた。 残念ながら時が経ち、現在では里の歴史の痕跡はうっすらとしか残っていない。それでもいつか「その里を一つずつ歩いてまわりたい。」「昔と現在の島を同時に感じてみたい。」そんなこと を思っていると、このスタンプラリーのスタンプの図案をデザインさせて頂くことになり、その夢が叶った。

さて、早速ロケハンの旅である。島を知り尽くした案内人から最初につれて来られたのは「クリスタル岬」。草地の道を下っていくと、ごつごつとした岩場に。微小な石英を含んだ幻想的な海 岸である。いきなり島の人しか知らないスポットだと思う。その次は「田代海岸」。ここは溶岩の所為か、原初の地球に立っているかのような感覚。その次にようやく人里の中にあるスポットに。 その「船行神社」では素敵なものを見たのでスタンプの図案にした。神社の傍の大きな杉の木や美しい用水路なども記憶に残る。そんな小さな印象がパズルのピースのように繋がって、心の 中に屋久島のイメージが結実するのではないだろうか。ここに全部を書ききれないが、安房の森のトロッコや西部林道の動物たちの領域、夕日を楽しめる海中温泉、白亜の灯台、神社や教会 などの歴史を感じさせる宗教施設、地元の漁師さんが今でもお参りするえびす様など、盛りだくさんのディープなスタンプラリーになりそうだ。スタジオでのスタンプ図案の制作は一ヶ月 以上にわたり、愛着もひとしお。ぜひ、あなたも屋久島の里と自然をめぐり空の下でスタンプを押して、マップに集めてほしい。

なかばん|1974年、広島県生まれ。広島県在住。
旅と記憶を主題に絵を描く。絵画作品を中心に、印刷物の挿絵、絵本、 映像作品を発表する傍ら、音楽家のトウヤマタケオと『ランテルナムジカ』 を結成し、音楽と幻燈で全国を旅する。・3年には新潮社「とんぼの本」の ロゴマークを制作。主な作品に絵本『よるのむこう』(白泉社)、 『みずいろのぞう』(ほるぷ出版)、『ないた赤おに』(浜田廣介作/集英社)、 『フランドン農学校の豚』(宮沢賢治作/ミキハウス)など。
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